システム設計プロセスは、要件定義で確定した機能や非機能要件を、具体的なシステムアーキテクチャや詳細設計に落とし込む段階です。以下に、システム設計プロセスの詳細な手順を説明します。
1. アーキテクチャ設計(基本設計)
システムアーキテクチャの定義:
システム全体の構成要素(アプリケーション、データベース、インフラなど)を定義し、どのように連携するかを設計します。
アーキテクチャスタイル(レイヤードアーキテクチャ、マイクロサービス、イベント駆動など)を選定し、その理由を明確にします。
技術スタック(プログラミング言語、フレームワーク、データベース管理システム、クラウドサービスなど)を選定します。
コンポーネント設計:
システムを機能別にモジュール化し、各コンポーネントの役割と責任範囲を定義します。
各コンポーネント間のインターフェースや依存関係を明確にします。
非機能要件の設計:
性能要件、スケーラビリティ、信頼性、セキュリティ要件などを基に、システム設計を行います。
例:負荷分散の設計、冗長構成、バックアップの設計、ログ管理の方法など。
データフローと制御フローの設計:
システム内でデータがどのように流れるか、データフロー図(DFD)を用いて視覚的に表現します。
制御フローは、システム内のプロセスや機能の実行順序を表すフローチャートやステートマシン図を使って設計します。
システム構成図の作成:
ネットワーク構成やサーバー、ストレージ、ネットワーク機器の配置を図示し、全体の構成を明確にします。
2. データ設計
概念データモデルの作成(ER図):
業務に必要なデータを抽出し、エンティティ(実体)とその属性、エンティティ間の関係を定義します。
ER図を用いてデータモデルを視覚化し、ビジネス要件を反映したモデルであることを確認します。
論理データモデルの作成:
概念データモデルを基に、データベース内でのデータ構造を設計します。テーブル、カラム、データ型、主キー、外部キー、正規化などを考慮します。
データの正規化を行い、データの冗長性を最小限に抑えます。
物理データモデルの作成:
論理データモデルを基に、実際に使用するDBMS(データベース管理システム)に合わせて物理的なデータベース設計を行います。
インデックス、パーティショニング、アクセス速度の向上を考慮したストレージ構成を設計します。
3. 詳細設計(ロジカルデザイン)
クラス設計:
オブジェクト指向の手法を用いて、システムの各機能をクラスとして設計します。
クラスの属性(メンバ変数)、メソッド、クラス間の関係(継承、実装、関連など)を定義します。
インターフェース設計:
モジュール間やコンポーネント間でのデータのやり取りを定義します。
API(アプリケーションプログラミングインターフェース)の仕様書を作成し、メソッドの入力と出力、エラーハンドリング、セキュリティ要件を明記します。
画面設計(UI/UX設計):
各画面のレイアウト、ユーザーインターフェース(UI)、ユーザーエクスペリエンス(UX)を設計します。
ワイヤーフレームやモックアップを用いて、画面遷移やユーザーの操作フローを具体化します。
使いやすさや視覚的なデザインを考慮し、ユーザーの操作性を高めます。
業務ロジックの設計:
各業務機能の詳細な処理手順を設計します。
業務ルールやビジネスロジックをフローチャートやアクティビティ図を用いて表現し、開発者が理解しやすいようにします。
バッチ設計:
定期的に実行するバックグラウンド処理(バッチ処理)の設計を行います。
実行スケジュール、入力データ、出力データ、エラーハンドリングなどを詳細に設計します。
4. セキュリティ設計
認証と認可の設計:
システムにアクセスするユーザーの認証方法(ID/パスワード、OAuth、SAMLなど)を設計します。
各ユーザーがシステム内でどの機能やデータにアクセスできるかを定義し、アクセス制御の設計を行います。
データセキュリティ設計:
データの暗号化(トランザクション中、保存中)、データのマスキングや匿名化を設計します。
データベースのアクセス権限や、ログ監査の方法を定義します。
通信のセキュリティ設計:
システム間の通信が安全に行われるよう、HTTPSやVPN、ファイアウォールの設定などを設計します。
5. インフラ設計
サーバー構成の設計:
アプリケーションサーバー、データベースサーバー、Webサーバー、ロードバランサーなどの構成を設計し、各サーバーの役割を定義します。
スケーラビリティを考慮し、水平分散、垂直分散の設計を行います。
ネットワーク設計:
各コンポーネント間のネットワーク構成を設計し、必要な帯域幅、セグメント、サブネット、ファイアウォールルールを定義します。
外部アクセスや内部ネットワークとの接続を含む通信経路を明確にします。
バックアップ設計:
データのバックアップ方法、バックアップの保存先、復旧手順を設計します。
災害対策(DR:ディザスタリカバリ)を含め、システム障害時の復旧手順を定義します。
6. テスト設計
ユニットテスト設計:
各機能やクラス、モジュール単位でのテストケースを設計します。全てのパス、境界条件を考慮し、可能な限り網羅的なテストを設計します。
結合テスト設計:
モジュールやコンポーネント間の連携を検証するためのテストケースを設計します。特にインターフェースやデータの受け渡しに注力します。
システムテスト設計:
システム全体が要件を満たしているかを検証するテストケースを設計します。性能テスト、負荷テスト、セキュリティテストなどを含めます。
ユーザ受け入れテスト(UAT)設計:
ユーザーが実際にシステムを操作し、要件通りに機能するかを確認するためのテストケースを設計します。
7. 設計レビューと承認
設計ドキュメントのレビュー:
作成した設計書を関係者でレビューし、要件定義と矛盾や漏れがないかを確認します。
設計の承認:
レビューの結果を反映した設計書を、正式に承認し、開発フェーズに進む準備を行います。
このプロセスを通じて、システムの全体像と詳細な設計が明確化され、開発フェーズにおける手戻りを最小限に抑えることができます。